最近S660のクラッチについて思うことがあったので書いてみようと思う。
S660のMTモデルのクラッチにはクラッチダンパーというデバイスが装着されているのはご存知の通りだと思う。
管理人は鈍いのか特に不便に感じないのでそのままにしているがハタっと気がついたことがある。
そんな事を書いてみた。
クルマのクラッチはクラッチカバーとクラッチディスクの組み合わせ
クラッチというのはクルマのパーツの中でも縁の下の力持ち的なパーツだろうと思う。
見えないパーツだから見てくれをアピールできるモノではない。
だが走ることを考えるとなくてはならないパーツの一つだし、パワートレーンの中でも重要なパーツであることは間違いない。
管理人TomTomがラリー競技現役の頃は、純正クラッチはもちろんだが様々な組み合わせを試した。
例えば
- 強化クラッチカバー+ノーマルクラッチディスク。
- 強化クラッチカバー+強化クラッチディスク
- 強化クラッチカバー+メタルクラッチディスク
等々を試してみた。
exedy-racing.com
感触としては強化クラッチカバー+強化クラッチディスクの組み合わせが一番良かった。
だが激しい使い方をすると、クラッチが滑るようになり、そうなると交換するしかない。
クラッチの交換となるとこれまた大仕事になるので時間も費用も掛かる。
それが管理人TomTomの若い頃の悩みの種のひとつだった。
激しい使い方ってどんな使い方なんだ?と言われると、特に普段やらない使い方としては次のようなモノがあった。
- スタートの際にエンジン回転を上げた状態(おおむね5,000rpm前後)でクラッチミートする
- 上りでギア比が合わないとエンジン回転数を上げてガツンとクラッチを繋ぐ(クラッチを蹴る)
- シフトダウン時に回転を合わせないでガツンと繋ぐ(シフトロック)
競技時はクルマの限界まで性能を引き出してやる必要があり無理を承知でこういう使い方をしていた。
やりすぎるとクルマが壊れてリアタイアの原因となるので難しいところだ。
よくあるクラッチトラブルとしてはクラッチが滑る、ジャダーが出るというところだろうか。
クラッチが滑り出すと、これはもう速くは走れないのでリタイアにつながる。
パワートレーンの中でも重要な機能を持つクラッチ
クラッチはパワートレーンの中で動力伝達をOn/Offする、または半クラッチで動力伝達を調整するという機能を持つのはお分かりだろう。
パワートレーンというのは、エンジン、クラッチ、ミッション、プロペラシャフト(FRの場合)、デフ、ドライブシャフトというパーツで構成されている。
これらのほとんどのパーツはギアの噛合で構成されている。
唯一クラッチだけがクラッチフェーシングでの摩擦力によるパワーの伝達となっている。
つまりパワートレーンになにか無理がかかった時に力が逃げるのはクラッチ部分しかないということになる。
競技専用車やレーシングカーだとクラッチもガチガチのモノを入れて少しでも動力伝達にロスが出ないようにする。
一方、普段使いの車ではクラッチをガチガチのものにしてしまうと力が逃げる場所がなくなる。
その結果どうなるかというと、ギア部分が壊れることが多くなる。
例えば、ドライブシャフトのスプラインが舐めるとか、ミッションのギアが欠けるとか、ということが起こる。
管理人TomTomがラリー競技現役だった頃、TE71カローラGTのセダンにメタルクラッチを入れていたことがある。
それまで入れていた強化クラッチカバー+強化クラッチディスクの組み合わせで滑ったので強化した。
当時のメタルクラッチはクラッチ合わせ(半クラッチ)が難しくって慣れるまでは難儀したものだ。
ある日、クルマを発進させようとしてクラッチを少々ラフに繋いだら、なんだか変な感触がしてクルマが左に曲がらなくなった。
これはおかしいと感じたので、そのままクルマ屋さんに持ち込むと案の定デフのリングギアとピニオンギアが欠けてしまっていた。
これは管理人TomTomのメタルクラッチの扱いが下手くそだったということだが、クラッチを固めると他のドライブトレーンにストレスがかかるということだ。
どこかのギアが欠けるようなことになるなら、クラッチが滑るほうがまだマシだと思う。
クラッチはこうしたドライブトレーンにストレスが掛かった際の駆け込み寺的な存在でもある。
S660のクラッチの感触はいまいちダイレクト感がない
前置きが長かったが、お話しはやっとココから本題に入る。
管理人TomTomはいろんなクルマに乗ってきた中でS660のクラッチの感触が特別悪いという印象を持ったことは無い。
感じていることはクラッチミートのポイントというかエッジと言うか、そういうものが少々あいまいだな、という事だ。
そしてそれがクラッチダンパーという部品が組み込まれているということが原因なのかもしれないとは感じていた。
だけど走っていて支障はなくって、どちらかというとドライバーのミスをリカバリーする方向で効いているような気がしていた。
管理人TomTomは山岳路や峠道を連続して走ることが多いが、疲れてくるとクラッチミートがあやしくなる。
この時に多少の余裕というかギャップがあるほうが良いと考えている。
さらにS660は軽自動車だがミッドシップであり、後輪に荷重が乗ったときにはクラッチには多大な負担がかかる。
よく言われることだがリアエンジンのポルシェの911のクラッチミートはアイドリング付近でミートして、できるだけクラッチを労らなければならないと言うではないか。
その理屈と同じだ。
こうした事からS660のクラッチについてはクラッチダンパーが付いていて、それがダイレクト感を犠牲にしている、とは分かっているがそのままにしている理由だ。
実際走っている時にクラッチが滑るとかレスポンスが大幅に遅れてしまうということも無いために現在はノーマルのままにしてある。
しかしこれって加速する時のことだ。
では減速時はいったいどうなのか?と考えてみた。
ミッドシップがゆえの苦肉の策のクラッチダンパー!?
なぜホンダはS660にクラッチダンパーを入れたのか?
S660ってクラッチミートがすごく難しいクルマではないと思う、ごくごく普通の感触だ。
イロイロ考えていたら思い当たることがあった。
それは2輪のスリッパークラッチの存在だ。
2輪のスリッパークラッチと言えば、エンジンブレーキが掛かった際に後輪がロックやホップしないように減速時のみある程度スリップするクラッチのことだ。
最近のロードモデルには装着されていることが多い。
2輪の場合は減速時に後輪荷重が極端に抜けてしまうためにこうした仕組みが無いと簡単に後輪がグリップを失ってしまう。
それを防止するためのデバイスだ。
4輪の場合は、2輪ほど極端な後輪荷重の不足とグリップが無い状態には陥らないのでこうした仕組みは見たことがない。
あえて言えばワンウェイのLSDは減速時に多少なりともこうした効果を発揮するかもしれない。
S660のコンセプトとしてリアは絶対滑らさないという考えが随所に現れている。
その一例が後輪のタイヤサイズで、軽自動車としては異例の195/45R16という極太の大径タイヤを装備している。
普通に考えれば前後同サイズで十分なはずだ。
タイヤもそうだがAHA(アジャイルハンドリングアシスト)についてもアンダーが出たら、それを打ち消す方向に働き軌跡を引き戻すが決してオーバーステアにはならない。
ホンダはS660に対してあらゆるレベルのドライバーが乗ることを想定して、リアが絶対滑らないようにこうした対策をしている。
こうしたコンセプトをS660が持つことを考えれば、減速時の急激なクラッチミートによりリアがロックしオーバーステアになる事は避けたいはずだ。
前に説明したように横Gが掛かった状態でシフトダウンして、スパッとクラッチを繋ぐと駆動輪はロック気味になる。
これをうまく利用してオーバーステア状態を作り出す方法がブレーキングドリフトのひとつだ(シフトロック)。
シフトロックを利用せずに普通にブレーキでオーバーステア状態を作ることもある(効きをリア気味にセッティングする)。
これは管理人TomTomの勝手な想像だが、ホンダはS660に対して決してオーバーステアにならないようにクラッチダンパーを付けたのではないかと思う。
2輪のスリッパークラッチのような効果を期待しているのだろうと想像する。
つまりS660のクラッチダンパーは加速時のためのモノではなく、減速時のためのもの、加えてクラッチの感触については安全のために犠牲にしたということになる。
クラッチダンパーが付いているから、スパッとクラッチペダルを離してもじっくりとクラッチは繋がり、後輪はロックしないという訳だ。
きっとシフトにより駆動輪がロックしてしまうということ自体がABSやAHA、それにVSAの制御外のことなのだろうか。
もしこれが事実ならホンダは実に様々な走らせ方を研究してセッティングしていると感心する。
S660って実に奥が深いと思う。
今回はこのへんで
では