エンジンの環境性能が大いに求められる時代になったのは皆さんご存知の通りだ。
かつて70年代最後から80年代に入る際に排ガス規制のためにガソリン車が楽しくなくなってしまった時期があった。排ガス規制をクリアするために原始的なキャブレターから電子燃料噴射装置に移行したためだ。
しかし現代の最新モデルでは環境性能を満たしながらドライビングの楽しみを味わえる味付けができるようになってきた。これはガソリンエンジンだけではなく最新のディーゼルエンジンでも同じことが言えるようになってきている。
今回は最新ディーゼルエンジンを取り上げてみた。特にプラドに積まれたトヨタの世界戦略ディーゼルエンジンである新型1GD-FTVを中心に見てみよう。
↑ トヨタのプラドに積まれた新型1GD-FTVエンジン、一昔前に比べるとディーゼルエンジンもコンパクトになった、世界戦略エンジンなだけあり最新の技術が多数投入されている、スペックだけ見ると少し物足りない印象がある、画像はメーカーサイトより拝借
パワートレーンの多様化とディーゼルエンジンのハイパワー化
パワートレインの多様化が進み、ガソリンエンジン、ハイブリッド(ガソリン/ディーゼル)やEV、そして日本においてもディーゼルエンジンが改めて普及が進む段階になってきた。
つい先日公開されたアウディー新型A4では直6ターボディーゼルエンジンをフラグシップエンジンとして位置付けており、スポーツ性能をも兼ね備えたモノとして打ち出してきている。
燃費一点張りのディーゼルから運動性能のディーゼルへと変わりつつある事が見て取れる。考えてみれば耐久レースやWTCCのようなレースではガソリンエンジンよりもディーゼルエンジンが速い。こうしたレースの世界のフィードバックが一般マーケットに始まったという事が言える。
ハイパワーと高トルクをディーゼルエンジンが持ち合わせる事でスポーツドライビングも可能となってきたわけなのだ。
↑ 新型1GD-FTVエンジンのエンジン特性図、この特性から見てもあまり回らないディーゼルエンジンだと分かる、実用域はせいぜい4,000回転と言う所だろう、今時のディーゼルエンジンとしては回転域が狭いように感じる、というかトラック用のエンジンに近い感じだ、画像はメーカーサイトより拝借
↑ 新型1GD-FTVエンジンのエンジンシステム図、2つの触媒が存在しそれぞれPMの除去とNOxの除去を受け持っている、NOxの処理は尿素SCRと呼ばれるタイプ、画像はメーカーサイトより拝借
ディーゼルエンジンの環境対応へのアプローチ
現在の乗用車用ディーゼルエンジンには後処理が必要なモノと必要無いモノがある。後処理とは主に触媒の事で、この触媒でPM(粒子状物質)やNOx(窒素酸化物)を取り除き排ガスを綺麗にする処理の事だ。
今回はNOxを処理するために補充の必要な尿素を使用するかどうかで分類してみた。ユーザーとしてはオイル等と異なり特殊な物質の補充が必要な事はちょっと心配なのだ。
尿素を使うタイプ(尿素SCR)
メルセデス:BlueTEC(E220等)
トヨタ:1GD-FTV(プラド等)
尿素を使わないタイプ
BMW:ツインパワー・ターボ・ディーゼル・エンジン(320d等)
マツダ:SKYACTIV-D(CX-3等)
ボルボ:D4(V40等)
ディーゼルエンジンで使用する尿素に関しては1,000kmから1,500kmで1Lの尿素を消費するようだ。尿素のタンク容量は概ね15L程度なので15,000km~20,000kmで補充が必要になる。また一定のレベルの尿素残量が無いとエンジンが掛からないようになっている。
この尿素は「アドブルー(AdBlue)」と言うネーミングで無色無害の液体尿素水溶液となっており誰でも扱える。「アドブルー(AdBlue)」というネーミング自体はドイツ自動車工業会の登録商標となっている(いかにもドイツらしい)。
↑ メルセデスのBlueTECと呼ばれるディーゼルエンジン、尿素を使うディーゼルエンジンとしては早い時期に出たエンジンだ、クリーンディーゼルのイメージ向上に一役買ったエンジンだと思う、画像はメーカーサイトより拝借
↑ BMWの320dに積まれるディーゼルエンジン、こちらもCセグメントでのディーゼルエンジン普及に大変貢献している、普通に乗れるディーゼルとして立ち位置を確保している、BMWは尿素を使わないタイプだ、画像はメーカーサイトより拝借
↑ マツダのSKYACTIV-Dエンジン、国内でのディーゼル人気に火が付いた立役者、マツダはディーゼルエンジンの後処理をしない方式(尿素を使わない)の先駆者なのだ、1.5Lのディーゼルエンジンをラインアップしているところがいかにみマツダらしいニッチ狙いだ、画像はメーカーサイトより拝借
↑ ボルボのD4ディーゼルエンジン、最近存在感を増しているボルボのディーゼルエンジン、パワーと燃費のバランスが素晴らしい、デンソーの「i-ART」と呼ばれるインジェクター技術が支えている、このエンジンも尿素を使わないタイプだ、画像はメーカーサイトより拝借
改めてトヨタの1GD-FTVの内容を見てみる
トヨタの発表記事には次のように出ている。
トヨタ自動車(株)(以下、トヨタ)は、低燃費と、発進時から力強い加速をもたらす動力性能、ならびに高い静粛性を実現させた、2.8L直噴ターボディーゼルエンジン「1GD-FTV」を新開発した。世界初のTSWINを取り入れた次世代高断熱ディーゼル燃焼の採用などにより、世界トップレベルの最大熱効率44%を達成。これにより、従来型の「KDエンジン」と比べ燃費が最大で15%向上するとともに、ダウンサイズしながら最大トルクは25%、低速トルクは11%向上している。また、トヨタ初となる尿素SCR*6システムの採用などにより、世界で最も厳しい排出ガス規制である欧州EURO6および平成22年(ポスト新長期)排出ガス規制*7などに対応する。
ちなみにこのエンジンを2016年末までに年間70万基規模を生産をするという事なのでトヨタのディーゼルエンジンの主力となるエンジンだ。
その性能は次のような内容となる。
1GD-FTVのスペック
2.8L直噴ターボディーゼルエンジン
177PS/3,400rpm
450Nm/1,600~2,400rpm
という内容で数値だけを見ると少し物足りない印象がある。最新のアウディーのディーゼルエンジンに比較するとパワーはマイルドだ。
アウディ最新ディーゼルエンジン
ついこの前発表されたアウディA4に積まれるディーゼルエンジンの抜粋。3.0TDIは非常に強力でA4でもフラグシップエンジンとなっている。
3.0TDI 6気筒 272hp 600Nm/1,500~3,000rpm
2.0TDI 4気筒 190hp 400Nm/1,750~3,000rpm
↑ アウディの最新TDI4気筒エンジン、先日発表された新型A4ではディーゼルエンジンが主役だ、これはその中でも4気筒TDIの190hpのタイプ、3.0TDI 6気筒は凄いスペックとなっていて新型A4のフラグシップエンジンなのだ、画像はメーカーサイトより拝借
狙っているところが異なる
トヨタの1GD-FTVの性能が抑えられているのは車の使われ方と地域に関係がある。日本では最初にプラドに搭載されたがこれでも分かるようにどちらかと言うと4WDのSUVに展開されるようだ。やはりグローバルで見るとその使用環境が非常に過酷な事もあり、これを考慮しているのだろう。
アドブルーと飛ばれる尿素水を使用するタイプとなっているが、これに関しても世界的に入手が簡単になったという判断があるのだろう。
アドブルーの入手は簡単だ
試しにAmazonで調べてみたらアドブルーはすでに販売されている。アドブルーは入手が簡単で価格も思っていたよりも安いのだ。これには少しビックリした。
1GD-FTVは過酷な環境での実用エンジン
日本では比較的使用される環境としては良い方だろう。世界中の過酷な環境の中で使われる事を想定しているので壊れない丈夫なエンジンとなっていると思われる。それに入手の容易な尿素を利用した環境対応もそれを考慮していると思われる。
きっと4WDのSUVに積まれて性能を発揮できるエンジンなのだろうと思う。
これからのディーゼルエンジンとスポーツドライビング
管理人TomTomはVWのTSIエンジン(230PS/30.6kgm)を積むゴルフに乗っていた時期がある。この時に感じたのは回らないエンジンだなぁと感じたものだ。昔の感覚で行くとガソリンエンジンはぶん回してなんぼという所がある。しかしこのエンジンは中間トルクが太くて回さなくても速いのだ。
おお~これが燃費とパワーを兼ね備えた新世代のエンジンなのかと思いドライビングスタイルも変える必要があった。
これに似たところが最近のディーゼルエンジンにはある。最新のディーゼルエンジンでは性能は概ね2.0Lターボで200PS/40kgmあたり、これでいて燃費は20km/Lくらい走るという事になる。ディーゼルエンジンはこれだけの性能と燃費性能や環境性能を備えたエンジンなのだ。
やはりディーゼルエンジンの魅力はその太いトルクにある。この特性を生かそうとするとトルクの厚いところで回転数をキープする必要がある。単純に言えばパワーバンドが下がったという事で良いだろう。
これからは頭を切り替えて、高回転までぶん回す古いドライビングスタイルからトルクで走る練習をするべきだ。
今回はこのへんで
では