今までに車のドライビングに関してさまざまな事を書いてきたがマニュアルトランスミッションのシフトのしかたについて書くのを忘れていたということに気がついた。
スポーツドライビングにとってマニュアルトランスミッションのシフト操作は一番のお楽しみだ。
クルマ好きにとってヒールアンドトーを使ってシフトダウンがスパっと決まったときは爽快な気分になれて幸せなのだ。
マニュアルトランスミッションの車自体が少なくなってきた今日この頃、この楽しみはすでに一部のエンスーの人たちだけのものになってしまっている。
だけどスポーツドライビングの肝であることは間違いない。
そんなマニュアルミッションのシフト操作のことを書いてみた。
honda.co.jp より拝借
マニュアルトランスミッションの構造を理解する
そもそもマニュアルトランスミッション(MT)の構造を理解しているだろうか?
車のドライビングはその動きや構造を理解していると「そうだったのか」と理解が進む場合が多いと思う。
そこでまず第一にマニュアルトランスミッションの構造を理解してみよう。
ミッションはエンジンパワーを伝えるパワートレーンの一部
一般的な車のエンジンからのパワーは次のように上から順番に伝達される。
- エンジン
- クラッチ
- ミッション
- デファレンシャルギア
- ドライブシャフト
- タイヤホイール
この中でギアが付いているのはミッションとデファレンシャルギアの2つだ。
この2箇所でエンジンのクラインクシャフトの回転を減速したりしてエンジン特性を実際の走行に最適化している。
マニュアルトランスミッションのキモ
現代のマニュアルトランスミッションは変速するということ以外のキモはシンクロ機構だろう。
このシンクロ機構が発達し高性能になったので現代のマニュアルトランスミッションはダブルクラッチを踏まなくてもスコンとギアが入るようになった。
これはどういうことかというと次のようなことだ。
インプット側のギア(インプットシャフト)はエンジンからの伝達を受けて常に回っている。
それを受け止める側のギアは空回りしている状態なのだ。
そこでギアレバーを選択して変速すると選択されたギアはもともと空回りしているのだがシンクロ機構によってインプット側の回転速度と同期する。回転が同期するとギアがきれいにかみ合いスコンとギアが噛み合う仕組みだ。
上記の図にはシンクロ機構は示されていないがスリーブと書いてあるのがその仕組みのことだ。
これが同期しないとお互いの回転が合わずギアがガリっと音を立てて入らなかったり壊れてしまうことになる。
ミッションの構造とシンクロ機構、それにダブルクラッチは過去に解説しているのでこちらを参照いただきたい。
マニュアルミッションは変速時に内部で回転合わせをしている
重要なことはここまで説明したようにマニュアルトランスミッションは変速時に内部で回転合わせを自ら行っている(シンクロ機構)。
これがシンクロ機構で現代では進化しフルシンクロメッシュと呼ばれている。
このシンクロ機構の回転合わせのための時間が必要になるということなのだ。
マニュアルトランスミッションの変速の際に一呼吸おく
マニュアルトランスミッションの変速時に手に伝わるギアの感触を感じたことがあるだろうか。
例えばS660のマニュアルにはマニュアルミッションの操作は次のようにしか記述がない(実にシンプルだ)。
S660オーナーズマニュアルより
そもそもシフトレバーが入りにくい
ミッション自体が冷えているとそもそも目的のギアに入りづらい時もある。
管理人TomTomが現在乗っているS660なんかも冷えていると1速に入りにくい。
スポーツ走行のためにミッションオイルを粘度の高いモノに変更している場合にもこうしたことが起こることが多い。
ミッションが温まってくれば問題無いので温まるまでしばし待つようにしたい。
温まって走り出すと
ミッションが温まり走り出すと1速から2速、2速から3速とギアを変速していくだろう。
このギアを変速する際に一呼吸おくとシフトレバーは次のギアがニュルっと入る。
この一呼吸というのがミッションにより異なるし温まり具合にもよるので自分の車と状況に合ったタイミングというのを習得するのが重要だと思う。
少し異なるシフト方法もある。
次のギアに変速する場合にその入り口で軽く手を添えて待つという方法だ。
ミッション側の準備ができたら吸い込まれるように入っていく。
いずれにしてもシンクロ機構が働いて準備OKになったら目的のギアに入れる事ができると言うことなのだ。
速いシフトワークをしたい!
スポーツ走行でやりたいのは速いシフトワークだろう。
管理人TomTomも若いころに当時珍しかった車載映像を見てバタネンの素早いシフトワークを真似したものだ。
そしてステアリングホイールから手を離す時間を最小限にできるように練習した。
下の画像は管理人TomTomが乗っていたZC31スイフトスポーツのシフトレバー。
シフトレバーが短かかったのでベースから底上げしてある。
そのためシフトレバーのブーツがピンピンに張っている。
最近のマニュアルトランスミッションに感じていること
最近感じているのは現代のマニュアルトランスミッションは非常に素早い変速ができないような印象がある。
たぶんシンクロ機構の保護のためにある程度のマージンを取っているのだろうと想像できる(実際のところ分からないが)。
それでも素早いシフトワークをするのはスポーツ走行の楽しみだし素早くシフトしたい。
素早いシフトアップでも待ちは必要
素早いシフトワークと言っても無理やりこじ入れるとマニュアルトランスミッションがガリガリ鳴って壊れてしまいそうだ。
実際に激しいシフトワークでマニュアルミッションを壊すこともあるので無理やりギアを入れるのはやめておこう。
だから素早いシフトアップをする際にでもある程度の待ちは必要だと思う。
これはシンクロ機構のことを考えると当然だ。
マニュアルトランスミッションとオイル
マニュアル、オートにかかわらずトランスミッションにはオイルが入っているのはご存知の通りだ。
ここではマニュアルトランスミッションのことを解説する。
FR車のミッションオイル
FR車はミッションとデファレンシャルギアが離れていて機械的に別々になっている。
ミッションにはミッション専用オイルを使用する。
これはミッションだけが使用するオイルだ。
デファレンシャルギアも同様にデファレンシャルギア専用オイルという専用のオイルを使用する。
これはオイルに求められている性能が異なるからだ。
FF車はミッションとデフがオイル共用
FF車は構造上ミッションとデフが一体になっていることが多い。
こういう構造のためオイルはミッションとデファレンシャルギアが共用する仕組みとなっている。
だからFF車は特にこのミッションオイルには気を使いたい。
FF車のミッションオイルはミッションとデファレンシャルギアの両方に酷使されるのだ。
ミッションオイルの交換サイクル
普通に走っている限りはメーカー指定の交換サイクルで問題ない。
しかしスポーツ走行のためにサーキットへ走りに出かけたりすると負荷がかかりオイルも熱を持ち劣化してしまう。
サーキットに限らず峠を攻めるのも負荷を与えるので同様にオイルが劣化してしまう。
交換サイクルだがおおむねサーキットを2回走ると交換くらいに考えておいたほうが良いだろう。
ミッションオイルが劣化してくるとミッションの入りが悪くなったりしてくる。
その状態でさらにミッションを酷使するとミッションブローすることもあるので注意したい。
特に最近のミッションはオイル容量が少なくオイルが早く劣化する傾向がある。
管理人TomTomがラリー現役の頃は走行3,000kmでエンジンオイル、ミッションオイル、デフオイルを交換していた。
さらにラリー本番前にも交換していた。
一つの目安にはなるだろう。
LSDとオイル
FF車にしてもFR車にしてもLSDを入れている場合は専用のLSDオイルが必要になる。
FR車の場合はデファレンシャルギアだけが独立しているためLSD専用オイルを入れれば良い。
FF車は前述のようにミッションとデファレンシャルギアが一体となっているのでミッション&LSD用の専用オイルが必要だ。
いずれにしてもLSDを入れていると専用オイルが必要になるということだ。
管理人TomTomの乗っているS660はミッドシップだがFF車の機構を流用しているのでミッションとデファレンシャルギアが一体になっている。
それにビックリするのだがミッションオイルは1.3Lしか入らない。
軽自動車というのもあるだろうがミッションのオイル容量が少ないのにはビックリする。
スポーツ走行時にはミッションブローに要注意かもしれない。
シフトストロークは短い方が良い?
スポーツカーでよく言うのがミッションを操作する際のシフトストロークとタッチだ。
一般的にシフトストロークは短いほど良いとされ、シフトタッチはミッションのゲートに吸い込まれるようにスムーズに入るのが良いとされる。
さらに剛性感というものもありシフトレバー自体がカチっとしてグニャグニャしていないのがよしとされる。
全くもって人間の感覚は難しいものだ。
シフトストロークが短いって?
シフトストロークが短いとはどんな状態なのだろうか。
ストロークが長い短いと言っても人により感覚が異なるし明確な基準はない。
だがシフトレバーを操る際にグニャグニャして大きく操作するようになっていたらスポーツ走行しようという気持ちも萎えてしまう。
シフトレバーはFR車もFF車もテコの原理で人間のシフト動作をミッション本体に伝えている。
だからその支点の調整次第ではシフトストロークを短くすることはできる。
下の画像はZC31スイフトスポーツのシフトレバーのベース部分。
シフトレバーの元が丸くなっていてピポットになっている。
その下にワイヤを取り付けた部分があってテコの応用でワイヤを押したり引いたしする構造。
市販のショートストロークキットはピポットに位置を変えて少ない操作で同じだけのワイヤを動かす仕組みだ。
ショートストロークキット
特にFF車の場合はワイヤでシフト動作をミッション本体に伝えている。
こうした構造だから手元のシフトレバーはそのワイヤを動かす役割をしているだけなのだ。
これを逆手にとって小さな手の動きで大きくワイヤを動かすようにすればショートストロークを実現できる(支点を調整する)。
後付でショートストロークキットというのが販売されているのがこういう構造になっている。
ショートストロークキットには素晴らしい感触と短いストロークを実現したものもある。
しかし中にはショートストロークにし過ぎたためギアが噛み合う感触が伝わってこないというモノもあるので要注意だ。
管理人TomTomはシフトストロークは短ければ良いというわけではなくギアの噛み合う感触が伝わってこないといけないと思っている。
ミッションでも車と対話することが重要なのだ。
結局シフト操作って? ここまでのまとめ
ここまで書いたとおりマニュアルトランスミッションというのは非常に微妙な機構を持っている。
シフト操作は女性に接するがごとく、少し待ってあげて、優しく操作、そしてシフトした際のギアの噛み合う感触を楽しみたい。
例えが良いかどうかはご容赦いただきたい。
メンテナンスとしてはオイル交換が重要だ。
トランスミッションに負荷をかける走行をしたら迷わずオイル交換をしよう。
トランスミッションを操作する感触が悪くなってきたりしたらやはりオイル交換をしたい。
思っているよりもトランスミッションは微妙な機械というかパーツなのだ。
今回はこのへんで
では